糖尿病が引き起こす大血管障害

糖尿病の合併症としては、神経障害・網膜症・腎症の「三大合併症」が知られていますが、心臓や脳の太い血管に起こる「大血管障害」も見過ごすことのできない重大な健康障害です。心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患(足の血管の詰まり)がその代表であり、これらは突然発症して命に関わることがあります。
発症時の緊急性が高いものの、それまでの自覚症状に乏しいのが大血管障害の厄介なポイントです。境界型(予備軍)の段階からそのリスクを高めることがあるので、より早期からの対策が求められます。
大血管障害(え・の・き)
太い血管の動脈硬化が原因
大血管障害は、心臓・脳・足の太い血管で動脈硬化が進み、血流が悪くなったり血管が詰まったりすることで起こる病気の総称です。代表的なものとして以下の三つがあります。それぞれの頭文字をとって「え・の・き」として覚えましょう。
壊疽(え):足の血管が詰まる
足の太い血管で動脈硬化が進行して血流が悪くなると、足の組織に十分な血液が届かなくなります。ここに神経障害を合併すると足の痛みや傷に気づきにくくなるので、そこから細菌感染を起こすことがあります。この状態で放置されると、最終的には壊疽(えそ、組織が壊死する状態)に至り、最悪の場合は足の切断が必要になります。
脳卒中(の):脳の血管が詰まる・破れる
脳の血管が動脈硬化によって詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血」などを総称して脳卒中と呼びます。突然の手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくくなる、激しい頭痛などの症状が現れ、後遺症が残ったり命に関わったりすることがあります。
脳卒中そのものの治療は脳神経外科の領域ですが、動脈硬化の進行を抑える血糖・血圧・脂質の管理は、糖尿病内科・循環器内科で対応できる予防策です。
虚血性心疾患(き):心臓の血管が狭くなる・詰まる
心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化で狭くなるのが狭心症、完全に詰まるのが心筋梗塞です。糖尿病の方は複数の血管が同時に狭くなる「多枝病変」が起こりやすく、神経障害により胸の痛みを感じにくいことがあるため、発見が遅れるリスクも指摘されています。
三大合併症(し・め・じ)との違い
発症のタイミングが異なる
三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)は、糖尿病の罹病期間が長くなるにつれて徐々に進行する傾向があります。一方、大血管障害は糖尿病と診断される前の境界型の段階でも起こりうることがわかっています。特に食後の血糖値スパイクが動脈硬化を進める起点となるため、検査時の血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が正常範囲であってもリスクはゼロではありません。
突然発症して命を落とすことも
三大合併症が年単位で徐々に進行するのに対して、心筋梗塞や脳卒中は前触れなく突然発症する場合があります。特に糖尿病の方は神経障害によって痛みを感じにくいことがあり、心筋梗塞の典型的な症状である胸痛を感じずに、発見が遅れるリスクも指摘されています。
糖尿病の方が気をつけること
血糖値だけではなく血管の状態を確認する
HbA1cの数値管理だけでは血管の状態や合併症のリスクを把握できないため、大血管障害を十分に防ぎきれない場合があります。食後の血糖値スパイクの有無、血圧や脂質の状態、そして実際の血管がどの程度傷ついているかを総合的に把握して、適切な対策をとることが重要です。
感覚の変化を見逃さない
歩いている時にふくらはぎが痛む「間欠性跛行」は、足の血管で動脈硬化が進んでいるサインです。足の冷えや傷の治りにくさ、しびれなどが続く場合も、その裏に糖尿病による血管や神経の障害が潜んでいる可能性があります。
こうした感覚の変化は「年のせい」「疲れているだけ」と見過ごされがちですが、糖尿病の方は神経障害で痛みを感じにくくなっている場合もあるため、小さな違和感であっても放置せず、定期的に血流や神経の状態を確認しておくことが大切です。
当院での予防と管理
循環器専門医として大血管障害を防ぐ
神戸市灘区・JR六甲道のおおや内科 糖尿病・心臓クリニックでは、循環器内科と糖尿病内科を併設する当院では、血糖値の管理を通じて心臓や脳の血管を守ることを、糖尿病治療の重要な目的の一つと考えています。
糖尿病の診療では、定期的に頸動脈エコーで血管壁のプラークや動脈硬化の進行度を画像で確認して、心エコーで心臓の状態を評価します。また、ABI検査で足の血管年齢も測定して、全身の血管を総合的にチェックできる体制を整えています。
血糖値スパイクの抑制を予防の軸に据える
大血管障害の予防には、HbA1cの数値管理だけではなく食後の血糖値スパイクを抑えることが重要です。当院では食べ方の工夫を中心とした食事指導に加えて、脂質・血圧の管理を組み合わせた三位一体のアプローチで動脈硬化の進行を抑えています。心筋梗塞や脳梗塞のリスクが気になる方は、症状がなくても一度血管の状態を確認しておくことをおすすめします。